ちいさな目シリーズ

うさぎうさぎ

 最近この街に越してきたアイちゃんは人見知り。幼稚園に行ってもウサギばかり見ていて、なかなかお友達ができない。小さい弟の世話と引っ越しの片づけで機嫌が悪いお母さんに追い出され、外に出ていったアイちゃんは、近所の縁側で日なたぼっこしている痴呆のおばあちゃんに出会う。そこのおばさんとも仲良しになり、誉めてもらったのが嬉しくて、家でも弟の世話ができるアイちゃん。それがきっかけでお母さんは優しくなるし、幼稚園でもお話ができてお友達が増えた。ウサギに餌をあげたことを報告に行くと、おばあちゃんはウサギの好きな葉っぱを教えてくれる。アイちゃんがお友達と遊ぶのに忙しくしている間、おばあちゃんは手袋でウサギの指人形を作って待っていた。幾日かしておばあちゃんのところに遊びに行ったアイちゃんは、弱って床に伏しているおばあちゃんに手袋のウサギをもらう。毎日の楽しいことを報告しながら寝入ってしまったアイちゃんの横で、おばあちゃんはひっそりと息をひきとっていった。
 春になり明るさを取り戻したアイちゃんは、おばあちゃんの思い出を胸に元気に成長していくのだった。

名前のない犬

 高校生の郁実は、3年前に万引きグループの一人と間違えられた傷を抱えたまま、荒んだ生活をしていた。義理の関係であるがため、波風たてないように気を配るばかりの母親と、息子の素行をその義母に任せきりの父親。母親にさえ信用してもらえずにいた郁実にとっては、華やかな街中で奔放に生きている方が自分の居場所があるような気がしていた。そんな街の裏路地で、たびたび見かけるホームレスの老人と犬の姿が気にかかる。チンピラにからまれているところを助けられ、「誰かに必要とされているのでなければ、生きている理由も存在する意味もない」と諭される。息子を心配して繁華街を探し回る義母の姿を見ながら、その言葉を反芻する郁実。
 その老人が以前絡んできたチンピラに暴力を受け、いっしょにいた犬が殴り殺されてしまった。たったひとりの家族だったものを、ついてくるだけで満足し、名前すらつけてやらなかったことを後悔する老人。逝ってしまう魂を、何と言って呼び戻してやればいいのか…。名もない犬の亡骸を見送って、老人は街に消えていった。まだ自分を必要としてくれる家族を振り返り、郁実は過去の空隙を埋めようとするのだった。

ライオンのこども

 獅子倉(ししくら)史明には小学生の2人の息子がいる。長男の賢太郎は素直で明るく、自分に似ていて無条件に愛情を注ぐことができるが、次男の遊はあきらかに違う。大学時代の友人の内藤にはなついているのに、父親の自分にはよそよそしい。これは相性が悪いだけなのか?
 そんなある日、賢太郎がケガをして入院することになった。母親の麻弓が付き添うため、家では史明と遊のふたりになってしまう。史明の母親がヘルプに来てくれるものの、遊の態度は変わらない。母親は遊の仕草や性格が史明にそっくりだと話すが、当の本人にはそうは思えない。反発する反面、風邪気味で食欲のない史明のためにお粥を作ろうとしてくれる遊。少しずつ歩み寄りつつある二人の中に、入院中にすっかり過保護になった賢太郎と麻弓が帰ってくる。ひとり疎外感を味わう遊は、拗ねて外へ飛びだしてしまう。それを追った史明は、公園で遊をなだめるうちに自分との共通点をはじめてみつけ、ホッとする。遊もまた、「ライオンのお父さんになる」という史明の言葉に安心するのだった。

翼は空の上

 大作家・栃波流星(となみりゅうせい)が亡くなった。祖父母に預けた妾腹の子にたまに会いに来る父親を、兄の宙(ひろし)は敬愛していたが、幼い烈(れつ)にとっては面倒な存在だった。馴染めないまま成長する中で、兄を亡くし祖父母を見送ってきた。大学時代、夢のひらめきからはじめた文筆活動は海堂烈の名で流行したが、父親との関わりを世間に知られぬまま成功していった。生前の父との対談でも義姉・永遠子との対面でも、否定的な態度で接してしまう烈。父はそんな烈の作品を非難し、叩いて潰そうとしていた。
 父の四十九日が過ぎて永遠子に呼び出された烈は、はじめて父の書斎に入り、そこに積まれた海堂烈の作品を目にする。父は烈をライバルとして意識し、自分を越えようとしている若い作家に満足感を抱きながらも恐れていたと言う。それを聞いて烈は、自分もまた父を忌みながら目指していたのだと知る。大きすぎる父は雄大に空を舞う鷹のごとく、まだまだ手の届かない高みにいる。そして幼い頃の烈は、本当は待っていたのだった。父が自分たちの傍で翼を休めてくれることを…。